Mayaの「チンダルレ(つつじの花)」について。意味や元ネタご存じですか?

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Mayaというロックシンガーの진달래꽃(チンダルレ)について語ります。

韓国で一昔前にヒットした曲ですので、ご存じない方が多いと思いますが、偶然曲に触れる機会があったので、歌詞の生い立ちや解釈について書いてみました。

韓国語ではつつじをチンダルレと呼ぶ

つつじのきれいな季節になりましたね。

私が子供の時分には、よく花の蜜を吸って「毒があるからやめなさい!」と、親にしかられたものでした。

さて、韓国語でつつじは「진달래(チンダルレ)」と言います。

つつじは韓国にもたくさん咲いていますが、この花をテーマにした有名な近代詩があります。

それがこちら。

나 보기가 역겨워
가실 때에는
말없이 고이 보내 드리우리다

영변에 약산
진달래꽃
아름 따다 가실 길에 뿌리우리다

가시는 걸음 걸음
놓인 그 꽃을
사뿐히 즈려밟고 가시옵소서

나 보기가 역겨워
가실 때에는
죽어도 아니 눈물 흘리우리다

김소월(1925), 《진달내꽃》, 매문사, 190-191.

作者は金素月氏、1900年代初期の詩人です。

チンダルレは、同氏の代表作ですが、今日では、韓国現地の語学堂で使われているテキストに載るほど有名です。

筆者自身、さほど詩心はございませんが、なんとか訳してみましょう。

私がいやで
往くのなら
お好きにすると よいでしょう

延辺薬山(ヨンビョネ ヤッサン)
つつじ摘み
往く道々に まきましょう

敷き詰めた
花々を
迷うことなく 踏みにじり

私がいやで
往くのなら
死しても涙 流しませぬ

金素月,つつじの花

チンダルレの教科書的な解釈は「反語」だとされています。現代風に言うといわゆる「ツンデレ」ですね。

さて、このチンダルレ、私がソウルは新村の安下宿に住んでいたころ、別階の日本人女性が「気丈な唄ね」とコメントしていたことを思い出します。

きれいに解釈すると「気丈」でもよいのですが、私はどちらかというと「女の恨みつらみ」と感じ、空恐ろしさを感じたのを覚えています。

金素月氏は、1902年、植民地時代の朝鮮半島生まれの詩人でした。

当時の日本は、植民地政策の一環として、入植した土地の民衆を、文化的に日本人へと染め上げるための戦略を取ったそうで、現地語を禁じ、日本語を習わせるといった慣習があったようです。

私自身は政治にも善悪にも興味がございませんので、歴史的なお話はこのくらいにしておきますが、金素月氏の唄も、五七調や七五調など、どことなく日本的なリズムを帯びているのが特徴とされています。

下は金素月氏が作った別の唄の一節ですが、こちらもやはり七五調が印象的です。

짐승은 모르나니 고향이나마
사람은 못 잊는 것 고향입니다.
생시에는 생각도 아니하던 것
잠들면 어느덧 고향입니다.
조상님 뼈 가서 묻힌 곳이라
송아지 동무들과 놀던 곳이라
그래서 그런지도 모르지마는
아, 꿈에서는 항상 고향입니다.

김소월, 고향

詩の題名は「故郷」です。

話が逸れるので、翻訳は省略します。

Mayaがリメイクした「チンダルレ」がヒットしたということ

チンダルレは元々、詩として生み出されたもので、歌謡曲ではありません。

それが原作者の没後、約70年の時を経て、韓国のロックシンガーMayaによってメロディーが吹き込まれ、2003年当時大きな話題を呼びました。

曲名は「진달래꽃(つつじの花)」です。

MVにチェゲバラの看板が出ているあたり、舞台はキューバでしょうか。

引用部の歌詞はほとんど原作そのままですが、Maya氏オリジナルの歌詞とのミックスであるため、カバーというよりリメイクです。

節回しが歌謡曲にアレンジしやすいのでしょう。Mayaのみならず、原作そのまま曲として歌った歌手も、過去に存在していたそうです。

さて、私がチンダルレを、女の恨みつらみと解釈したのは、Maya氏オリジナル部分の歌詞がきっかけでした。

내가 떠나 바람되어 그대를 맴돌아도 그댄 그녈 사랑하겠지
私が死に 風となり あなたにまとわりつていも あなたは彼女を愛するのでしょう

この「떠나」の部分は直訳して「去る」という意味ですが「私が去り風となり(내가 떠나 바람되어)」なんて、どう考えても死んじゃうということです。

訳しながらぞくりとします。

素月氏は男性でしたが、チンダルレは女性的な視点を持った詩とされています。

これを実際に女性が歌うと、実に迫力が出るところがミソです。

古来より朝鮮民族は、恨み節が大好きです。

日本的には、ややもすれば背筋が凍るような歌詞でも、韓国人の琴線に触れたのは、チンダルレが怨恨に根差した歌詞と解釈されたからと言えるでしょう。

つつじは漢字で躑躅(躊躇しながら進む様)と書く

躑躅と書いて「つつじ」です。音読みは「てきちょく」。

「躑」も「躅」も、足踏みをする様を表しております。

チンダルレで、去ってゆく恋人の足元へつつじの花をまくのは、躊躇してほしいとの暗示と解釈できます。「つつじ」と「てきちょく」のダブルミーニングが深いですね。

余談ですが、つつじの花言葉は「恋の喜び」とのことです。

しかし、私が聴いた限り、Mayaが歌ったチンダルレの曲調は、とても「恋の喜び」を想起させるものではなく、自分を捨てて去っていく恋人に対して、延々とリフレインする呪詛に聞こえました。

雨露に濡れたつつじの花びらは、涙を流しているようにも見えます。

恋心と憎悪は表裏一体ということかもしれませんね。

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